文化人類学

イヌイット(エスキモー)の狩猟生活について!アザラシの呼吸穴猟など季節により変化する狩猟生活

目次
  • イヌイットの狩猟生活
  • 秋(9月~10月)
  • 冬(11月~5月)
  • アザラシの呼吸穴猟
  • 春(5月~6月)
  • 夏(6月~9月)
  • 伝統的なカヤックによる海上猟
  • 夏の卵とり、ベリー摘み

極北に住むエスキモーのイメージとして狩猟民族であることを思い浮かべる人も多いと思います。

エスキモーは極北の厳しい環境の中でどのように狩猟生活を送ったのか紹介します。

この記事は岸上伸啓さんの『極北の民 カナダ・イヌイット』や『イヌイット 「極北の狩猟民」のいま』を参考にカナダのケイプ・スミスイヌイットを中心にイヌイットの狩猟生活について紹介します。

イヌイットの狩猟生活

イヌイットが住む極北地帯の一年はほぼ冬と夏の二つの季節からなり、季節の変化で自然環境や動物の分布も毎年繰り返し変化します。

そのため、イヌイットの生業活動の形態も毎年繰り返し変化します。

地域や年によって変化はありますが、冬は11月から翌年の5月まで続き、春は5月~6月にかけて、夏は6月~9月までで、秋は9月から10月までです。

ケイプ・スミス地域のイヌイットにとって特に重要な食糧は、彼らが住む地域の周辺で一年中とれるワモンアザラシ、夏場のシロイルカとセイウチ、夏から秋にかけてのホッキョクイワナです。

冬のアザラシの呼吸穴猟や夏のシロイルカやセイウチ猟は集団で行われ、他の季節は個人猟が主に行われました。

秋(9月~10月)

秋にイヌイットの獲物として重要なのはワモンアザラシ、カリブー、ホッキョクイワナ、湖や川にいる魚などです。

ワモンアザラシはカヤックからライフルと銛を使う個人狩猟です。

カリブーは食料としてだけでなく、冬服やマットレスを作るためにも必要でした。

魚類は、網漁や釣りなど個人で捕獲されました。他に食料がない時は沿岸部でタラやカジカがつられました。

冬(11月~5月)

11月には川や湖が凍結し、沿岸部にも氷結域が広がっていき、2月の寒さのピークを迎えた後は徐々に氷がとけ始めます。

11月から翌年の5月までが氷の世界です。

冬の中心的な狩猟活動は、ワモンアザラシの呼吸穴を利用した狩猟です。

たまにシロクマやホッキョクウサギ、湖や川の魚をとったりもします。

アザラシの呼吸穴猟

伝統的なアザラシの呼吸穴猟は、海氷上にたくさんあるアザラシの呼吸穴を見つけ、それを見張るために、多数のハンターを必要とする集団猟です。

ワモンアザラシやアゴヒゲアザラシは、海面が凍結した後も、呼吸をする為の穴を海氷上に複数維持しています。

イヌイットはこのアザラシの習性を利用して、呼吸穴でアザラシを待ち伏せして狩猟します。

アザラシがどの穴を使用するか分からないため、複数のハンターが複数の穴を同時に見張る必要があります。

ハンターが見張っている穴がすぐに使われる場合もありますが、多くの場合、何時間も待たされます。

呼吸穴猟は、マイナス30度以下の寒さに耐えながら長時間じっと待つ必要があります。

ハンターは風をよけるように体をかがめ、アザラシに気配を悟られないよう気を配りながらひたすらアザラシが出てくるのを待ちます。

アザラシが呼吸をしに来た気配を感じるとライフルや銛を用意し、穴から出てきたアザラシを仕留めます。

仕留めたアザラシを呼吸穴から海氷上に引き上げます。

アザラシはその場で解体されることが多く、解体に居合わせたハンターたちは解体しながら肉を食べました。

残った肉や脂身、毛皮はハンター間で必要とする量に応じて分配されました。

春(5月~6月)

春になると日照時間が伸び、暖かくなります。この季節には、アザラシが海水縁付近で日光浴をしたり、巣穴で子アザラシが育ちつつあります。

ケイプ・スミス周辺地域で春のアザラシ猟は豊富で、余った分は全て、冬のために積み石冷蔵庫に蓄えられました。

春には湖の氷上から川魚をとったりもしました。

また、春には体を白く変身させたライチョウ狩りが行われます。

イヌイット社会ではライチョウは体に良い薬のようなものだと考える人が多く、生のままや煮て食べます。

ライチョウ狩りは日没が近くなったころに、灌木の茂みに隠れたライチョウを一斉に飛び立たせ、散弾銃で仕留めます。

夏(6月~9月)

6月には海上から大きな氷塊がなくなり、氷で囲まれていない水域が広がります。

ケイプ・スミスのイヌイットは夏には海上や沿岸で多種の海獣や魚類を捕獲したり、鳥の卵や野イチゴなどを採取しました。

彼らはカヤックを利用した海上でのアザラシ猟やシロイルカやセイウチを狩るための集団猟も行いました。

シロイルカやセイウチの余剰肉は、冬の食料用に貯蔵されました。

伝統的なカヤックによる海上猟

伝統的な夏の海上猟では、ハンターはカヤックに乗り、その看板にやりともりをしばりつけて猟に行きました。もりは回転式で10mくらいの網の反対側にアザラシの皮で作った浮きを繋げてあります。もりは回転式のため、一度刺さるともり頭が回転して抜けなくなります。

ハンターはアザラシを探しながら、静かにカヤックを漕ぎました。アザラシに近づいたら、看板のもりを片手にとって投げました。

もりが命中したアザラシは海中に潜っていきます。その時点から、アザラシは自分の体に刺さっているもり頭の網によって浮きに繋がれており、浮きはカヤックやハンターから切り離されています。

これによってハンターが海に落ちることを防ぎます。アザラシに引っ張られたことによって、カヤックは転覆する危険があったからです。

アザラシは潜ったまま、どんどん浮きを引っ張っていきますが、しばらくすると浮きの抵抗によって、アザラシは疲れてきて、海水面に戻り休もうとします。しかし、アザラシが海水面に戻ってくるとまず、浮きが浮いてくるため、アザラシが上がってくる場所がハンターに分かります。

ハンターは浮きのところに行って、浮上してくるアザラシを待ち構えて水上でアザラシが休む時間を与えません。こうしたことを繰り返すことで、アザラシは致命傷を負っていなくても、息を切らせ疲労がたまり動きが鈍くなります。

そうなってきたら、ハンターはアザラシに近づいてやりで刺し殺すことができます。仕留めたアザラシを短い網でカヤックにつないでから新しい獲物を探します。

クジラやセイウチなど大型の海獣も同じ方法で捕まえますが、大型の海獣は1人では難しいので、集団で猟を行います。

また、夏には個人でシロクマやカリブーなどの陸獣をとることもありました。

ケイプ・スミス地域ではホッキョクイワナが豊富で主要な食料源となります。

夏の卵とり、ベリー摘み

卵とり

夏になると極北の島々に渡り鳥がやってきて卵を産みます。

イヌイットは産みつけられた卵を集めたり、孵化したばかりの雛を走って捕まえたりしました。

ベリー摘み

夏には、イヌイットの子供や女性を中心に、ブラックベリーやクランベリーなどのベリー類の採取も行いました。

ベリー類はイヌイットが採取できる数少ない植物です。

ベリー摘みは女性にとって重要な仕事で、女の子が初めてベリーを摘むと親は村人にお祝いの品を配ったりします。女の子は父親にベリー摘み用の手桶などを作ってもらう習わしがありました。

今回は、イヌイットの狩猟生活について紹介しました。イヌイットについて更に知りたい方は、以下の記事も読んでみて下さい。