- エスキモーとは?
- 極北の自然環境
- 伝統的なエスキモーの文化
- エスキモーの狩猟生活
- エスキモーの衣食住
- エスキモーの社会制度
- エスキモーの精神世界と同名者関係について
- エスキモーの家族制度
- エスキモーのおすすめの本
極北の氷雪の世界に住むイヌイットやエスキモーという民族名称を聞いたことがある人も多いと思います。
厳しい自然環境の中、独自の文化で生活してきたイヌイットやエスキモーについて紹介したいと思います。
イヌイットやエスキモーとは?
西はシベリア東北端から東はグリーンランドにかけての広大な極北地帯に住む先住民族のことを欧米社会ではエスキモーと呼んできました。
しかし、エスキモーという名称は他称(他の人が呼ぶ名称)であり、一つの民族を指す名称ではなく、様々な民族に属する極北民の総称です。
エスキモーはロシア、アメリカ、カナダ、グリーンランドの四つの国に分断され、各国の政府が用いる民族名称にも違いがあります。
ロシアの極北先住民族の自称はユッピックです。
ロシア政府の公称は彼らをエスキモーです。
アメリカのアラスカでは、北部の沿岸地域に住む人々の民族自称はイヌピアックで中部及び南西部の海岸地域に住む人々の民族自称はユッピックです。
アラスカ州政府は、これらのグループの総称としてエスキモーを公称として使用しています。
デンマーク領のグリーンランドの先住民族は地域によってイヌイットやカラーリット、イトなどと自称しています。
グリーンランド政府はカラーリットという名称をグリーンランド人の意味で、使用しています。
カナダの先住民族の自称はイヌイットです。
多数の移民を含むカナダではイヌイットなど民族名称がエスキモーに代わり、正式名称として使われてきました。
しかし、エスキモーはクリーなど他の民族の言葉で「生肉を食べる人」に由来するとされ、差別的な意味を持つ他称であると考えたため、カナダの政府やマスコミは政治的な配慮から「人々」を意味するイヌイットを民族名称として使用するようになりました。
イヌイットやユピックなどの民族名称の自称はすべてその土地の言葉で「人間」を意味します。
また、差別的であるとされたエスキモーという言葉の語源は「かんじきの網を編む」というカナダ東部のインディアン語に由来するなどの説が出てきており、必ずしも差別的な名称ではありません。
この記事ではカナダの極北民のことをイヌイット、極北民の総称をエスキモーと呼びます。
極北の自然環境
エスキモーが住む地域は、北緯55度以北の高緯度地域で、永久凍土が広がり、冬には海も凍ります。
高緯度のため、冬は長く寒く暗く、夏は短く涼しく明るいという特徴があります。
極北の季節は暗く寒く長い冬と、明るく涼しく短い夏、そして、夏と冬の間のごく短い春と秋があります。
11月から翌年の5月ころまでは冬で海上も内陸も雪と氷の世界です。
特に11月から2月は日照時間が短い時間に限られ、長い黒夜の状態が続き、日が昇らない日もあります。気温もマイナス25度以下の日がほとんどです。
10月から翌年の5月末までの氷雪の時期にはスノーモービルや犬ぞりを利用します。
4月頃から日照時間が長くなり、6月末には太陽が沈まない白夜になります。7月に最も温かくなりますが、7月の平均気温でも10度以上にはなりません。
夏には地表に草や花、コケ類や地衣類が姿を見せ、極北の地域が鮮やかに色づきます。
7月中旬から9月頃の夏は海から氷がなくなり、ボートやカヤック、ウミアックを利用できます。
極北地域は極めて乾燥しており、降水量が低く地理学の分類では砂漠気候です。
極北地域は乾燥しているため、同じマイナス15度で比較した時には、湿度が高いモントリオールより過ごしやすく感じます。
さらに、極北地域は栄養が少なく植物の発達が極端に乏しいため、高木が存在しない森林限界以北の環境です。
しかしながら、海獣や陸獣が豊富に生息し、食料としてだけでなく、道具や衣類の原材料としてもエスキモーは利用することができました。
生息しているのはアザラシやセイウチ、シロイルカなどの海獣、カリブー、ホッキョクグマなどの陸獣、カナダガンやライチョウ、カモなどの鳥類、ホッキョクイワナやサケ、マスなどの魚類などです。
伝統的なエスキモーの暮らし
エスキモーの文化は先ほど述べたような厳しい自然環境に適応するために形成されました。
エスキモーは生まれながらに寒さに強いわけではありません。
エスキモーが極北の寒さの中で生き延びることができたのは狩猟と独特の衣食住、そして社会制度があったからです。
エスキモーの狩猟生活
エスキモーは、まわりにいる動植物を食材や道具の原材料としてあますとこなく活用しました。
エスキモーは動物を捕るために季節の変化に応じて住む場所を変えました。
冬には海氷上に現れるアザラシの呼吸穴(息継ぎをする為にアザラシが使う氷の穴の部分)を利用してアザラシを捕まえました。
春には、沿岸部で日光浴をしているアザラシを捕らえました。春のアザラシ猟は、たくさんアザラシがとれたので、食べない分は保存されました。
夏には沿岸でホッキョクイワナやアザラシ、シロイルカ、セイウチを捕まえました。
秋には川を上るホッキョクイワナを捕り、内陸部ではカリブーを狩りました。
これらの動物はエスキモーの食材や燃料、道具の材料、衣類の素材となりました。
エスキモーの狩猟について更に詳しく知りたい方は、以下の記事を読んでみて下さい。
エスキモーの移動手段
エスキモーは冬の移動手段として犬ぞりを使い、雪原の世界の広い範囲を移動することができました。
雪や氷が溶けた夏にはカヤック(一人用ボート)やウミアック(数人用の一家全体が乗れるボート)を使って移動します。
エスキモーの衣食住
エスキモーの食事
エスキモーの主食はアザラシやカリブーの肉、ホッキョクイワナなどの魚類で、イヌイットは生のまま(自然冷凍も含む)でそれらを食べます。
生肉や冷凍肉は、動物の血液が含まれているため、エスキモーはそれを摂取することでビタミンをとることができます。
植物があまりとれない極北では、ビタミンをとるために生のままで肉を食べることが適していました。
また、エスキモーがアザラシや魚を食べる時には、アザラシの脂肪油に浸して食べました。私たちが刺身に醤油をつけるような感覚です。
高カロリーの脂肪分を多量にとることで、エネルギーを体内で燃焼させ、寒さから体を守ることができました。
イヌイットの衣類
エスキモーの伝統的な衣類は、カリブーの毛皮で作られ、アティギやアノガジェと言います。
アティギは内着として、アノガジェは外着として使われました。ブーツと手袋は寒さに強く、防水性にすぐれたアザラシの毛皮で作りました。
動物の毛皮を利用したエスキモーの衣類は、世界で最も優れた防寒具です。
エスキモーの住居
基本的なエスキモーの冬の家は、竪穴式の芝土葺きのものでした。
地面に穴を掘って、その上に組んだ流木やクジラの骨の骨組みに芝土を厚く張りつけることで寒さをしのぎました。
カナダ極北中部のイヌイットは、冬には木などの家を造れる材料がない中でマイナス30度以下になる極寒の中で暮らすため、氷雪の板を切り出し、らせん状に積み上げて、ドーム型の雪の家を作りました。
イグルーの中でアザラシの脂肪を使った石ランプに火をともせば室内の温度を0度以上にあげられます。
氷板を壁にしたドーム型の家は密封性にすぐれ、内部に暖気を包み込みます。
冬の外がどれだけ寒くてもイグルーの中では快適に過ごすことができました。
夏はアザラシの皮などで作ったテントで過ごしました。
エスキモーの社会制度
イヌイットが極北の厳しい環境の中で生き延びることができたもう一つの理由は、彼らの社会制度にあります。
その一つが食料分配の制度です。
イヌイットは獲物が取れるとそれを独り占めせずに、自分の家族に必要な文をとると残りは親族や友人に分け与える慣習を持っています。
彼らの生活の基盤である狩猟は運の要素が強く、どれだけすぐれたハンターでも、常に獲物をとることができるわけではありません。
獲物がとれない場合、獲物を獲れたハンターが、他のハンターに獲物を分け与えることで、多くの人が生き残ることができました。
エスキモーの精神世界と同名者関係について
エスキモーはすべてのものに霊魂が宿ると信じていました。
命あるすべてのものには霊と形質と性質と気があり、人間はさらに名前を持つことで、他の生命よりも強力な力を持っていると考えられました。
エスキモーにとって名前は特別な力があるものです。
そんな彼らにとっては、同じ名前を持つということは同じ霊魂を持つことを意味する特別な関係になります。このことを同名者関係と言います。
エスキモーの精神世界や同名者関係に興味がある人は以下の記事も読んでみて下さい。
エスキモーの家族制度
エスキモーの社会では、核家族が基本単位ですが、実際には拡大家族の場合が多かったです。
拡大家族とは、夫婦とその子供たちのほかに、夫婦の兄弟やイトコとその配偶者、そして祖父母などが同じ屋根の下に住む家族のことです。
エスキモーの家族関係は年長者が強い権力を持っていましたが、権力を分かりやすく使うことはせず、遠回しな言い回しで権力を行使しました。
詳しく知りたい方は以下の記事を読んでみて下さい。
エスキモーのおすすめの本
紹介したエスキモーについて学んだ本の中で特におすすめの2冊を紹介します。
図説エスキモーの民族誌-極北に生きる人々の歴史・生活・文化-
エスキモーやイヌイットについて学ぶ本の中で、一番おすすめの本です。
この本では、エスキモーの由来や歴史から生活全般にわたって分かりやすく紹介してくれます。
極北地方の自然環境、約6000年前にエスキモーの祖先たちがアジアから北アメリカ大陸に渡ってきた歴史、欧米人との出会いとそのいきさつ、エスキモーの身体的特徴や言語などを紹介する優れた民族誌です。
民族誌といっても難しい内容ではなく、私みたいな専門知識があまりない人にも理解しやすい内容です。
カナダ・エスキモー
元朝日新聞記者の本多勝一さんが現地民と生活した記録を記事にしていた文章をまとめた本です。
私が読んだエスキモーの本の中で唯一民族誌ではなかったので、たぶん50年ほど前ですが、生々しい現地民の生活や狩猟についてを感じることができてとても面白かったです。
特に犬を甘やかしてはいけないという章は他の本でも知ることができない内容で面白かったです。エスキモーはとても厳しく犬たちを調教します。それを見て可哀想に思った作者は、犬に優しい態度を数度しました。そうしたらある猟の日に、獲物を積むために作者たちだけで犬ぞりを使おうとしたとき、犬が言うことを聞かないうえに、獲物を犬たちが勝手に食べ始めてしまいました。作者たちは必死にムチを振って犬たちを止めようとしましたが、慣れないムチはあまりうまく振ることができず、ムチが体に絡まってしまいました。
現地民たちはそれを見て大笑いしました。一時滞在の作者たちは笑われて恥ずかしい思いをするだけで済みますが、犬ぞりが生活の一部であるエスキモーが犬に反逆されることは、厳しい自然環境で食料も限られているため、命にも関わります。
他の章でも、狩猟の方法や考え方についてなど私にとって未知のものがおおく書かれとても面白かったです。ぜひ読んでみて下さい。
他にもイヌイットやエスキモーについてのおすすめの本を知りたい方は以下の記事を読んでみて下さい。