文化人類学

エスキモー(イヌイット)の食生活について!季節ごとの食生活や独特の食べ物について

目次
  • エスキモーの食生活の特徴
  • エスキモーの食生活の季節的な変化
  • イヌイットの冬の食生活
  • イヌイットの春夏秋の食生活
  • イヌイットの春の狩猟生活
  • イヌイットの夏の狩猟生活
  • イヌイットの秋の狩猟生活
  • イヌイットの春夏秋の食生活
  • エスキモー独特の食べ物
  • マッタック
  • カリブーの脂身と胃の内容物を混ぜ合わせたもの
  • カリブーのパティクや魚と野イチゴのウアグティリク

狩猟民族であるエスキモーの食生活がどのようなものだったか知っていますか?

極北の厳しい環境を生きるエスキモーの食生活について紹介します。

現在のエスキモーは各国の政策で定住化した人が多く、昔ながらの狩猟で得た食料も食べますが、ハンバーガーやピザなども食べるようになりました。この記事では定住化以前の狩猟民としての食生活を紹介します。

エスキモーの食生活の特徴

エスキモーの伝統食は生食、煮る、発酵、乾燥、冷凍が基本的な調理方法です。

塩や胡椒のような調味料はなく、それに匹敵するのは動物の血や脂肪です。

エスキモーの伝統的な食事の特徴は肉が中心であるため、たんぱく質の摂取量が多く、かつ脂身を多量に摂取するために高カロリーです。

寒さの中でエスキモーが生き抜くためには、毛皮服による防寒の他に体内でエネルギーを燃焼させることが必要です。

もう一つの食事の特徴は、野イチゴ類や海藻などが少量あるだけで植物食が極めて少ないことです。これはイヌイットがビタミンの摂取が困難だったということですす。

しかし、動物の血や脂身の中には多様なビタミン類やミネラル類が含まれており、彼らは動物から間接的にビタミンやミネラルを摂取することができました。

エスキモーの食生活の季節的な変化

エスキモーは、多様な海獣や陸獣、魚類、鳥類、しょう果類などを食料としました。

  • 海獣:ワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシ、セイウチ、シロイルカ、イッカク、ホッキョクグマ、セミクジラなど
  • 陸獣:カリブー、ジャコウウシ、ホッキョクグマ、ホッキョクウサギなど
  • 魚類:ホッキョクイワナ、シロサケ、ヒメマスなど
  • 鳥類:カナダガン、ハクガン、ライチョウなど
  • しょう果類:ブルーベリー、ブラックベリーなど

極北の季節は大きく冬と夏に分けることができます。冬と夏で、自然の景観、動物の移動などに大きな影響を与えます。

そのため、エスキモーは食料となる動植物が豊富に分布する場所へと季節ごとに移動していく傾向があります。

以下では、エスキモーの季節ごとの食生活をイメージしやすいように、カナダのケープスミス・イヌイットを例にして紹介します。

イヌイット(エスキモー)の季節ごとの狩猟生活について興味がある方は以下の記事も読んでみて下さい。

イヌイットの冬の食生活

カナダのケベック州ハドソン湾側のイヌイットでは、冬は海氷上に雪の家を作り住居とし、呼吸穴に来るワモンアザラシを銛で捕獲しました。

冬の主な食料はアザラシの肉と、夏や秋に捕獲し海岸部に保存していたカリブーやセイウチの肉でした。

アザラシの肉と脂肪、小腸はイヌイットの重要な食料であり、また、肉や内臓は犬のエサにもなりました。

アザラシの肉は生のままかもしくは滑石製の鍋を利用して煮て食べられました。

生肉を食べる時には、口に入るぐらいの大きさに切った後で、アザラシの脂肪片を添えるか、液化したアザラシ脂に浸して食べました。アザラシの脂液は「ミソガク」と呼ばれ、日本人にとっての醤油のようなものです。

アザラシの脂肪を燃料として時間をかけてアザラシの肉を煮て食べることもありました。この煮汁にアザラシの血を加えることもあります。

イヌイットは肉だけでなく、煮汁も鍋から直接飲みました。

冬には夏に捕獲し、石積貯蔵庫に寝かせて発酵させたセイウチの肉を生のままで、カリブーの肉を生のままや煮て食べることもありました。

イヌイットの春夏秋の食生活

イヌイットの春の狩猟生活

春になるとキャンプに移し、アザラシの革製のテントを住居としました。

春には、沿岸部で日光浴しているアザラシや成長し始めた子アザラシが捕獲されました。春のアザラシの肉はほとんど生のまま食べました。

春のアザラシ猟は豊富で余った分は島や沿岸に石を積んで作った貯蔵穴に保存しました。

また、弓矢を利用したカリブー猟も沿岸近くで行われました。

イヌイットの夏の狩猟生活

海から氷塊がなくなると、カヤックを使い沿岸海域でアザラシ猟やシロイルカ猟が実施されました。また、地域によってはセイウチ猟も実施されました。

初夏から夏にかけては鳥の卵が採集され、その後は孵化した雛を捕獲しました。夏から晩夏にはブルーベリーなども採集しました。晩夏にはカリブー猟が行われました。

イヌイットの秋の狩猟生活

初秋になると、川に石を積み上げて作った簗を利用してホッキョクイワナを捕獲したり、レイク・トラウトを釣ったりしました。海が凍り、確固とした海氷が形成されると海氷上に移動しました。

イヌイットの春から秋にかけての食生活

春から秋にかけては海獣や陸獣、魚類、鳥類は生のままか、水で煮て食べることが多かったです。

煮る時に血を加えることを別とすれば、一般に味付けをすることはありませんでした。

鳥の卵は煮て食べられ、ブルーベリーは生のまま食べられました。

アザラシ、セイウチ、シロイルカ、カリブーの肉を大量に入手した場合は、それらを薄く切り取り、干し肉にしました。

また、ホッキョクイワナは三枚におろして、皮付きの肉部を天日干しにしました。干した肉や魚は、保存食であるとともに軽量であるため携帯食料にもなりました。

イヌイットは干し肉や干し魚をアザラシの革製の袋に、アザラシの脂肪とともに入れて保存しました。

また、それ以外の余剰の肉や脂身は石を積んで作った貯蔵穴に保存し、冬の備えとしました。

その中で、セイウチの肉、ホッキョクイワナ、鳥などをアザラシの皮で作った袋にアザラシの皮下脂肪とともに保存し、発酵させることがありました。

セイウチの肉の場合はそれをセイウチの皮で包み込み、石を積んで作った貯蔵穴にいれ、夏から冬まで寝かせると緑色がかった発酵肉になります。

通常の肉よりも強烈なにおいで、濃い味になります。また、アザラシの皮の袋に鳥や魚を入れてから密封し、貯蔵穴に寝かせて発酵させることもありました。

イヌイットの独特の食べ物

マッタック

イヌイットが特別に好む食べ物にシロイルカやイッカクの脂肪付き皮部があります。

イヌイット語で「マッタック」と呼ばれるこの部位は、1・2cmの大きさに切り取られて、生のまま食べられます。

マッタックは噛んでも噛んでもコリコリとし、噛み切れない、味は無味に近いそうです。しかし、イヌイットたちは皆喜んでマッタックを食べます。

また、マッタックは煮るとやわらかくなり、イカを煮たのと同じような食感と味になります。

カリブーの脂身と胃の内容物を混ぜ合わせたもの

カリブーの脂身とカリブーの胃袋の中で半ば消化された物を混ぜ合わせたものは珍味とされました。

カリブーは草食性であるので、胃の内容物は半ば消化された草やコケ類です。

松のようなにおいと胃液のにおいが混じり合った強烈すぎるにおいと半ば消化された異様な形状のため、日本人にとってはお世辞にも美味しいとは言えませんが、イヌイットの人にとっては珍味です。

また、これらを乾燥させて食べたり、冷凍させて食べたりすることもありました。

カリブーのパティクや魚と野イチゴのウアグティリク

カリブーの骨の髄(パティク)には、甘みがあります。女性や子供たちは骨を割って髄を取り出して食べました。

また、ホッキョクイワナやタラの身を煮てから、フレーク状にほぐし、野イチゴ類及び少量のアザラシ脂液と混ぜ合わせた料理(ウアグティリク)も作られました。

今回はイヌイット(エスキモー)の食生活について紹介しました。イヌイットやエスキモーについて更に知りたい方は以下の記事も読んでみて下さい。