文化人類学

ムブティ・ピグミーの狩猟とは?ネットハンティングについて!

ムブティ・ピグミーはアフリカの熱帯雨林に住む狩猟採集民です。今回は狩猟採集民であるムブティ・ピグミーの狩猟について紹介します。

目次
  • イトゥリの森とは
  • ネットハンティング
  • ネットハンティングとは?
  • ネットハンティングの労力と獲得量
  • ネットハンティングの分配
  • 狩猟採集民にとっての平等

イトゥリの森に住むムブティ・ピグミーにとって狩猟とは、単に日々の食料を得るための生業以上の意味を持ちます。

ムブティ・ピグミーにとって狩猟は、彼らの社会生活や価値観までを包含した全体的な生活様式です。

イトゥリの森とは?

イトゥリの森とは、面積は63000㎢の広大な熱帯雨林です。

平均気温は31度で、平均湿度は85%と高温多湿な熱帯雨林ですが、森の中は高い木々が直接の日光を和らげてくれます。

熱帯雨林とサバンナ地帯との境界ぐらいに位置し、降雨は頻繁で、4月~11月までの雨季には特に激しく雨が降ります。

植物の恵みや動物、魚類、昆虫などとても豊富で、食物倉庫と言っても過言ではありません。

ネットハンティング

ムブティ・ピグミーはネットを用いた猟をすることで有名です。

ネットハンティングとは?

ネット・ハンティングとは、10~20名の男女が参加する集団猟で、狩猟に使うネットは、森に生える蔓性植物の内皮をねじって作り、家族ごとに所有します。

一枚のサイズは高さ1m、長さ30~50mで、狩猟の際には男性が藪の中や木々の枝にひっかけてネットを張ります。これを10枚ほどつなぎ合わせて、全長500m以上にもなる円形にネットを配置します。

ある一定の広さを囲うように張っていきますが、木々や藪で視界が悪いため、中に動物がいるかは分かりません。

ネットを張る間、ムブティは口笛で合図し合うだけで、決して言葉を発することはありません。

ネットハンティングには1回の狩猟で、男性が10人前後、男性よりやや少ないぐらいの女性が参加します。

ネットの持ち主は男性ですが、妻なども猟に参加し、張り巡らしたネット囲いの開口部あたりから声を上げ、動物を追う役目をします。猟に行く時は、男たちはネットを丸めて肩に担いでいきます。

キャンプからそれほど遠くない場所でネットを張り始めて、一回目の猟をし、それが終わるとネットを外し、丸めて肩に担ぎ次の場所へ移動します。

場所を決めてネットを張り、猟をしてネットを外すのにおよそ一時間くらいかかります。こうして場所を変えてはネットハンティングをし、夕方まで森の中を猟をしつつ移動します。

ムブティは雨さえ降らなければ、ほとんど毎日ネットハンティングを行います。

ネットハンティングの労力と獲得量

熱帯雨林でのネットハンティングは他の狩猟方法に比べて安定しています。

しかし、獲物に逃げられてしまったり、ネットで囲った中に動物がいないこともあり、一日繰り返してもあまりとれない日もあります。

ネットハンティングで多く獲れるのは体重30kg以下の森林性ダイカ―類で、体重4・5kgのブルーダイカ―が特に多く獲れます。

森林性ダイカー類の多くは夜行性で、昼間は茂みの中に隠れて寝ているため、ネットで囲まれていることに気づかないため、多く捕獲されます。

私が読んだ市川光雄さんの「森の狩猟民 ムブティ・ピグミーの生活」で、市川さんがネットハンティングについて調べた23日間の狩猟結果について書いています。

この間、人々は三つのキャンプに移動し、漁に出たのは22日で、合計170回猟を行いました。一日当たり平均すると男が10人ほど、女が6・7人です。

一日7時間ほど狩猟に費やして7・8回の猟を行いました。その期間で獲物の捕獲量は合計124頭で重さにして805kgです。

一日当たりにすると平均で5・6頭、重さ35kgほどになります。

ネットハンティングの分配

ムブティのネットハンティングでは、ネットの張り方やとられた獲物の分配について平等になるようにしています。

ネットは場所によって、獲物の獲れやすさが異なります。そのため、ネットの場所は2回ずつくらいで交換します。

また、ネットにかかった獲物は原則として均等に分配します。

分配の際には猟の役割などで肉を配分します。獲物を仕留めた人やネットの所有者、獲物をキャンプまで運んだ人などです。

また、役割以外にも欲しいといった人などに分けることもよくあります。

分配された肉の使い方は自由で、自分たちで食べることもありますし、近隣の農耕民とキャッサバやバナナなどの農作物との交換に使うこともあります。

狩猟採集民にとっての平等

食べ物にしても、道具にしても、独占することはムブティにとって恥ずべきことであり、なんでも他の人に分け与える人が豊かな人と考えられています。

その理由は、狩猟採集民であるムブティは蓄えることのない生活をしているからです。

そのため、個人では、たくさん獲物の獲れた日があっても、次の日もたくさん獲れることは保証されません。

動物の猟は不安定であり、獲物が多い日も少ない日もあります。

イトゥリの森のような動物の豊富な森に住むムブティにとってもいつも必ず獲物が得られるわけではありません。

従って、獲物を捕獲した際に他の人に分け与えることで、自分が不猟の日には分け与えてもらえるようになります。

こうした分配を日々繰り返すことで、長い目で見れば各自の収支は平等になると考えることができます。