文化人類学

極北に住むエスキモー(イヌイット)の衣服とは?アティギとアノガジェについて

目次
  • アティギとアノガジェとは?
  • エスキモーの服作り
  • 噛んで皮をなめす
  • アティギとアノガジェの特徴
  • エスキモーの服が最高の防寒服の理由
  • 季節によるエスキモーの衣服の変化
  • エスキモーの靴と手袋と寝具
  • エスキモーの靴
  • エスキモーの手袋
  • エスキモーの寝具

極北に住むエスキモーの衣服は世界最高の防寒服です。

この記事では、エスキモーの服について紹介します。

アティギとアノガジェとは?

エスキモーはカリブーの皮を仕立てたアティギとアノガジェを着ます。

アティギはカリブーの毛を内側にして仕立て、アノガジェは毛を外側に出して仕立てます。

普通はアティギの方が温かく実用的ですが、湿っぽい雪や雨の時はアノガジェが適しています。そして、吹雪や、アザラシの穴をアザラシが出てくるまで待ている呼吸穴猟などの時は、アティギの上にアノガジェを着ます。

つまり、アティギは内着、アノガジェは外着と考えることができます。

また、アノガジェは美しい毛並みが外側に出ているので、装飾的な意味を持たせる場合もあります。

エスキモーの服作り

エスキモーの衣服を作るための毛皮を、家に持ってくると、まず脂肪ランプの上で乾燥させます。このランプは海獣の脂肪を火にかけて液化し、半月型に彫った石の皿の中にいれ、縁に芯を並べて火をつけます。

乾かした毛皮から服やズボン、靴、手袋、寝具など、すべてこの毛皮をなめしてから作ります。

噛んで皮をなめす

エスキモーは、なめすための薬品を持っていないため、なめす方法は口の中に入れて歯で噛むという方法です。

この噛む作業こそ、エスキモーの主婦たちの最大の仕事です。

エスキモーには料理というものがないため、主婦が食事の準備に時間を使うことはほとんどありません。エスキモーの主婦たちは私たちがイメージする家事がほとんどありません。

そのかわりに家族たちの衣服づくりと手入れが大変な仕事です。

そのため、エスキモーの女性は暇さえあれば皮を噛み続けます。おしゃべりしながらでも皮を噛んでいます。

皮を噛むのは服や靴などを作る時だけではなく、使った後に湿って硬くなった靴の底なども、いったん脂肪ランプの上につるして乾かしてから、ふたたび噛んで柔らかくします。

アティギとアノガジェの特徴

エスキモー服は、カリブーの毛皮を歯で噛んでなめし、カリブーの脊髄の腱からとった糸と、骨で作った針を使って縫って、アノラック型に仕立てます。

アティギが毛を内側にして仕立てた内着のことで、下着などは一切つけません。アティギの柔らかい毛が直接はだに触れるから温かく、体温を保護するのに役立ちます。

アノガジェはアティギとは逆に毛を外側に出して作る外着のことです。アノガジェは外気を遮断する役目をします。

エスキモーの服が最高の防寒服の理由

アティギが活動的で、しかも暖かいのは、空気の物理的性質をうまく利用しているからです。それは、暖かい空気ほど比重が軽いという空気の特徴です。

厚い毛皮一枚がふわりと体を覆うだけのため、空気が多く含まれ、下はあけっぴろげでも、暖かい空気は下には逃げません。上はフードでぴったりふさがれるため、上からも暖かい空気は逃げません。

私たち日本人の場合、寒い時はやたらと重ね着をして、着ぶくれしてしまいます。着ぶくれすると空気の層がないうえに、汗をかくと蒸発しにくいため、冷えやすくなってしまいます。

エスキモー服の場合は、暖かくなりすぎたときには、フードを外すだけで、首のまわりから暖かい空気が逃げていきます。

季節によるエスキモーの衣服の変化

北極圏の春の終わりから夏にかけてはアティギ1枚で十分に過ごせます。外側の皮が断熱材になり、内側の空気の層と毛が保温に役立つためです。

寒くなるとアティギの上にアノガジェを重ね、厳冬期になると、さらにアノガジェを重ね着します。

フードの周りはオオカミ、ホッキョクウサギ、キツネなどの毛でおおわれているため、顔面を保護するのに役立ちます。

ズボンもカリブーの毛皮で作ります。

エスキモーの靴と手袋、寝具

エスキモーの靴

最も寒さに弱い足先を保護するための靴はどうなっているのでしょうか?

アティギとアノガジェと同じようにカリブーの毛皮の内側に毛を向けた靴下風のものと、外側に毛をだした靴下風のものを重ねてはきます。これらが内側の靴で防寒用の役目をします。

外側の靴は小型アザラシの皮で作り、底の部分には大型のアザラシの毛をはりつけます。外側の靴は防水の役目をします。

これだけ履けば、マイナス50度でも平気です。

エスキモーの手袋

手袋もカリブーの毛皮とアザラシの毛皮で作ります。

内側の手袋はアティギと同じく毛が内側、外側の手袋はアノガジェと同じく毛を外側にします。

材料はどちらもカリブーの毛皮を使いますが、外側の手袋にアザラシの毛皮を使うことも多くあります。

これは、雪の家を作る時などの手仕事で特に雪や氷でぬれやすい時、より防水性を強くするためです。

エスキモーの寝具

エスキモーの人たちは、大人も子供もみんな寝る時は裸です。

寝具は主にカリブーの毛皮で、これもアティギ式に毛が直接肌に触れるようして使用します。

空気の層が保温に役立ちますが、家の中は脂肪ランプの暖房で、暖かくなっています。

雪の家の場合は、脂肪ランプの灯を強くするわけにもいかず、寝床が寒いため、アティギを着たまま毛皮を被って寝ることになります。

今回はエスキモー(イヌイット)の衣服について紹介しました。イヌイットについて更に知りたい方は、以下の記事も読んでみて下さい。