- ムブティ・ピグミーの食生活
- なんでも食べるムブティ
- 食生活を支えるもの
- 採集の重要性
- ムブティの食生活
- ムブティ・ピグミーの料理法
- 煮る
- 焼く
- マングングの葉を使った蒸し焼き
- 食物を蓄えない
この記事では、コンゴの熱帯雨林に住んでいる狩猟採集民ムブティ・ピグミーの食生活について紹介します。
ムブティ・ピグミーの食生活
なんでも食べるムブティ
人類はもともと雑食性だと言われています。
各種の植物をはじめ、肉、卵、魚、虫など人類はなんでも食べます。この伝統を最も忠実に守っているのは狩猟採集民です。
狩猟採集民は家畜の飼育や植物の栽培のような自然をコントロールする術を全く持ちません。
彼らの食生活は変動する自然に委ねられています。
このような不安定な生活を送る狩猟採集民は、日ごろからできるだけ多様な食物を利用する習慣をつけておいた方が良いとも言えます。
ムブティは動植物の豊富な熱帯雨林で生活をしている為、食物のレパートリーは実に多岐にわたる動植物が含まれています。
彼らはおおよそ食べられそうなものなら何でも食べます。
とはいえ、もちろん好き嫌いもありますし、文化的なタブーで食べられないものもあります。
食生活を支えるもの
多種多様なムブティの食物の中で、実際に彼らの生活を支えているのは、ごく少数の動植物です。
ムブティの狩猟獣の中で圧倒的に重要なのは、ダイカー類で、ムブティが食べる肉の7・8割がダイカー類によって賄われています。ムブティに限らず、一般に狩猟民はきわめて幅広い食物レパートリーを持っています。
しかし、実際には狩猟民はごく少数の動物を集中的に捕獲し、それに依存しているのです。
狩猟民は、地域の自然環境や動物の生息密度、狩猟方法から見て、捕獲効率の高いものか、あるいは捕獲の安定しているものに、狩猟の焦点を合わせています。
採集の重要性
狩猟と採集の効率について考えると、狩猟では、採集の二分の一から三分の一程度のカロリーを得ることしかできません。
また、植物の採集は安定した収穫を期待することができます。
植物の分布は定まっており、動物の様に逃げ出すこともありません。ある時期にある場所へ行けば、必ず一定の採集品があるという信頼性を持つのが採集活動の特徴です。
したがって、毎日の生計を維持するという点から見れば不安定な狩猟よりも、安定した採集の方が一般にはずっと重要です。
狩猟採集民というように、狩猟を先に持ってきますが、植物性食物を食生活のベースに置いているほうが多く、熱帯地域の狩猟採集民のほとんどすべてが、植物食の採集により強く依存しています。
これらの事実は、われわれ人類の遠い過去の食生活を解明するための手掛かりを与えてくれます。人類は狩りをするサルなどと言われますが、熱帯地方に誕生した初期の人類の食生活の基盤は、狩りによって得た獲物ではなくて、採集によって得た植物であったと考えられます。
しかし、狩猟は食生活以外の点でも重要な意味を持つ活動です。狩猟を通して分業や分配などの社会行動や複雑な道具政策の技術が発達しました。狩猟がもたらす良質な動物性たんぱく質がヒトの大農家を促進させたとも言われています。
ムブティの食生活
脱線してしまいましたが、ムブティの食生活に戻ります。
市川光雄さんの「森の狩猟民」によると市川さんがムブティのキャンプに滞在した1月末までの23日間のネットハンティングで800キロの獲物を捕らえました。
そのほかに、偶然狩場に迷い込んだオカピの子どもを槍で仕留めたので、獲物の合計は900キログラムです。
このうち、ムブティがキャンプで消費したのは約500キログラムで、残りは農作物や布地と交換に宛てられました。
一方、この期間にキャンプに持ち込まれた農作物は、ムブティ地震が村で交換したバナナやキャッサバの合計が735キログラム、交易人が運んできた米が約50キログラムでした。
つまり、狩猟で獲得した肉より多くの農作物を食べているのです。
ムブティはその気になれば安定したネットハンティングの獲物を主食として生活していけます。
これにもかかわらず、ムブティは食物の6割までを農作物に依存しています。
ムブティにその理由を聞くと肉ばかりでは腹がおかしくなると言います。
彼らもやはり、人類は環境条件さえ許せば植物性食物をベースにするという伝統を受け継いでいます。
ムブティ・ピグミーの料理法
ムブティ・ピグミーが行う料理法は、煮る、焼く、蒸し焼きにするの3種類だけです。
また、農作物が余ることもないので、でんぷん質を利用して酒を醸造することもありません。
煮る
もっとも普通の料理法は煮ることです。
金だらいのような大きな鍋にその日の獲物の肉や皮、内臓、血などを一緒くたにして放り込み、水を加えてぐつぐつと煮ます。
肉が煮えたらそれと一緒か別の鍋を使ってキャッサバやバナナなどの農作物や野生のヤマノイモなどを茹でます。
調味料はほとんど使いませんが、地殻の野生化したトウガラシがあればその実を入れます。
塩やアフリカで一般的に使われるヤシ油などは貴重品であり、よほどのごちそうの時以外にはまず使いません。
焼く
食物はまた、たき火で焼いて食べることもあります。
しかし、焼くという料理法は、特別の事情がある場合か、スナック程度の食事に限られています。
特別の事情というのは、例えば、獣肉のほかに魚やカエル、マイマイ、きのこなどを料理する場合です。これらの動植物はいずれも水と関連しています。
ムブティはこれらを狩猟にとって好ましくない雨を象徴するものと考え、獣肉とこれらのものを一緒に煮ることを「猟を台無しにする」といって厳しく戒めています。
鍋の数が足りないので、これらは焼いて料理するしかありません。
また、漁に出ている時にリクガメなどの小動物や根茎、きのこなどを見つければ、その場で火を起こして焼いて食べたりします。
空腹を抱えてキャンプに戻った時などにも、一般的に飢えを抑えるために動物の内臓や皮などを焼いて食べることもあります。
しかし、ちゃんとした夕食などに焼いた肉やキャッサバなどが出されることはほとんどありません。
恐らくこれは、多量の食物を調理するためには、煮ることよりも焼くことの方が、火加減の調整などにずっと多くの手間がかかるからです。
また、焼いた食物は焦げたり、脂肪がこぼれ落ちたりして無駄になることが多いためでもあります。
マングングの葉を使った蒸し焼き
マングングの葉を使った蒸し焼きは、シロアリなどの各種昆虫や魚、動物の内臓などの料理に用いられます。
この料理法によれば脂肪や血のようなうまみが逃げ出すこともないし、食物にマングングの葉の独特の風味が添えられます。
マングングの葉で上手に包めば、卵や血のような流動性のあるものでも十分にこの方法で料理できます。
これは、ムブティが土器や鍋を知る以前のもっとも一般的な料理法だったのであろうと考えられます。
ムブティの料理法を見ていて興味深い点は、彼らが自分自身で消費するために食物を保存することがほとんどないことです。
食物を蓄えない
交易にまわす肉はたき火などを使って乾燥させておきます。
しかし、ゾウなどの大物を捕まえた時を除けば、すべてその日のうちに調理して、あらかたを食べてしまいます。
肉などが余ったら、翌朝それを暖めて再び食べます。
いずれにしても獲物はこうして一両日のうちに平らげてしまいます。
自然に強く依存するムブティの生活は、その日暮らしを建前としています。
ネット・ハンティングは狩猟法の中では、安定した捕獲を保証しますが、これでは、食生活にむらが生じてしまいます。
そのためにムブティは驚くほどの大食をすることがあります。
食物が豊富な時には動けなくなるまで食べ続けます。
しかし、逆に食物が乏しい時には何日も空腹を抱えていなければなりません。
大食はこのような不安定な食生活に対する、一つの接触の戦略なのだと考えられます。